さくら
「一生懸命仕事しててな、素直で笑顔が可愛くて人懐こくて、患者さんにも近所の人にも人気があったよ。藤子さんも本当の妹のように可愛がってた」
思い出を愛しむように真野が口にした。
一生一緒にいるならこんな娘がいいーーー真野は本気でそう思っていた。
「ぼくが・・・・・悪かったんや。親の決めた婚約者が未散を追い詰めて・・・・・それに気付かんと、未散もぼくには言えなくて・・・・・」
未散が姿を消したときに真野の心は凍りつき、2度と誰も愛せなかった。
「すまなかった・・・・・未散を守ってやれなかったぼくが全部悪い」
桜子に向かって真野が深く頭を下げる。
桜子は一言も発さない。
ーーーーーー良かった。
悪い人ではなかった。
ママを愛してくれていた。
ママが目の前から去ってしまったことに傷付いて、自分を責めて、誰も愛せなくてーーー。
膝に置かれた真野の手に桜子が自分の手を重ねる。
桜子には許すなんて傲慢なことは言えない。それは未散と真野の問題だと思うから・・・・・。