さくら
意外なほど誰からも非難も反対もされなかった。
「ぼくの娘です」
真野先生が皆の前で言い、よろしくお願いしますと頭を下げてくれたのも後押しとなったのかもしれない。
貴子でさえ口を噤んでいた。
医院は一週間ほどお休みすることにして、志信は色々片付ける用事があるため留守にし、真野は企業内のクリニックを知り合いから引き継ぐということで出掛けていた。
真野は近所にマンションの一室を購入し、もうすぐこの家を出ていく。
桜子はリビングの掃き出し窓を開けて座ってぼんやりしていた。聡志が寝ていた部屋も片付けないとーーーそう思うのに身体が動かない。
もう誰もいないのに、聡志がそこにいた気配が色濃く残る部屋が寂しく、主を無くしたベッドを見ると胸を抉られた。
ふと、桜子が視線を感じた。
中庭に誰かが入って来る。
「・・・・・・・・・・貴子、おばさま・・・・・」
気の強い貴子が何処か虚ろな表情で、そこに立っていた。
訳もなく、桜子の背中が粟立つ。