さくら
「あんたの母親は後から出てきてわたしの婚約者を横取りしたのよ!善良そうな顔して周りを騙して!」
『親が無理矢理決めた婚約者』
桜子が真野の話を思い出す。
あれは貴子のことだったのか。
何もかもが腑に落ちた。
未散に婚約者を奪われた貴子。
「・・・・・忘れたいのにあんたはあの女の面影がそのままやなんて笑うに笑えへんわ。ちゃっかり父子の名乗りまであげて!志信まで誑かして浅ましくて厚かましいところまでそっくり・・・・・!」
貴子が一方的に捲し立てるのを桜子は黙って聞いている。
何を言って、どう反論すれば良いのかが分からない。
立ち尽くす桜子の肩に誰かが手を置いた。
「浅ましいのはきみの方や」
凍りつくような声音で言い返す人が桜子を背中に庇うように前に立った。
「26年前、ぼくはきみにもご両親にも婚約は破棄してくれと言うたはずや。どうしてもきみのそのキツい性格が好きになれんかった」