さくら
「・・・・・酷いこと言わはる。容姿かて家柄かてわたしの方が上やったのに」
桜子の目の前にある背中に緊張が走る。
「そんなもん、ぼくが一度でも欲しいて言うたか?ぼくは未散が未散であったら良かったんや!付属品がないと結婚できひんきみとは違って未散の優しさや素直さだけがぼくの欲しかったもんや!」
貴子が真っ青になった。
「きみが虐めてこの家から未散を追い出したことはちゃんと聡志も気付いとった。性悪のきみが腕によりをかけていたぶったら未散なんか他愛もなかったやろ」
貴子に向けられた真野の言葉は辛辣で確実に彼女の心をへし折っていく。
これはきっと真野の復讐。
愛しいものを奪われたことへの。
「ぼくは未散の分まで桜子を守る。きみを排除することなんて容易いことや」
失われた20数年は長すぎた。
真野は未散と自分の娘、桜子を今度こそ守ると決めていた。
貴子と真野が睨み合う。
成り行きを見守るしかない桜子を、そっと後ろから抱き寄せる手。
「桜子、なんも心配せんでええ」
耳元で囁かれる声。
「貴子おばさん、もうこの家に出入りせんとって。法事とかもおじさんだけで充分や」
「何を言うてるの、志信!そんな娘のためにあんたまでわたしをーーー!」
「しーちゃ・・・・・」
柔らかい視線で志信が桜子を制した。
「オレはもう桜子に我慢することに慣れさせたくない。おばさんを寄せ付けないことで桜子が辛い思いから解放されるならそうする」
「志信!あんたなんてことをーー!」
貴子が怒りに震える。