さくら
「きみがぼくの居ない間に桜子にどんなことをしてどんなことを言うたかはもうええ。謝ってもらおうとも思わん。どうせ許されへんからな。もう二度とぼくの目の前に現れんでくれたらそれでええ!」
穏やかな真野の激しい怒りに貴子が怯え、踵を返してまた中庭から走り去った。
「待ってーーー!」
貴子を追いかけようとする桜子の腕が強く引っ張られる。
「桜子!」
「しーちゃん、貴子おばさまが・・・・・!」
「ええよ、おじさんもオレもお前の方が大事や」
不安げに見上げる桜子の背中に志信が腕を回し、落ち着かせるようにポンポンと叩いた。
「しーちゃん・・・・・あかん、わたしのために・・・・・貴子おばさま・・・・・」
志信の腕から逃れるように桜子が身を捩る。
「桜子?」
「しーちゃん、わたしを選ばなければこんな・・・・・わたしやなくてもっと綺麗で賢い、貴子おばさまも気に入る人がいて・・・・・」
視界の端に真野が痛ましそうな顔をしたのがわかったけれど、一度零れ始めた言葉は止まらなかった。