さくら
「抗がん剤、止めたって?」
「ああ、もうしんどい」
「可能性はない?」
「ないなあ・・・・・あちこち飛んどるしな。あとは上手に痛みと付き合うていくしかないやろ」
飄々として答える。
「ひとごとみたいやな」
志信が静かに言葉を返す。
「好きに生きてきたんでな。もうええかって気持ち半分心残り半分ってとこや」
「心残り?」
「お前の嫁さんと桜ちゃんの花嫁姿見れへんかったこと」
「ははは、そら悪かったな」
「お前はともかく、桜ちゃんは幸せにしてやりたかった。あの子がいじらしくてなあ・・・・・」
「ホンマやな・・・・・」
15年前、聡志に手を引かれて家にやって来た桜子・・・・・・・・・・。志信にとっても、父親や母親にとっても庇護すべき大事な女の子。