さくら
キッチンに戻ると、暖房ですっかり温まっていた。
朝食の準備をするために鍋を用意する。
これも毎朝決まった桜子の仕事だ。
「お味噌汁の具は何にしようかな・・・・・」
誰ともなしに呟く。どうせ一人なのに・・・・・。
「オレの好きなジャガイモと玉ねぎがええな」
いるはずのない人の声がして、勢いよく振り返った。
「志信《しのぶ》さん!?」
振り向いた先にはすっかり伸びた髪を一本に無造作に結び、顎には見慣れない髭を生やしたこの家の長男、後藤志信が1年半ぶりに立っていた。
「いつ日本へ?」
「昨夜成田に。夜行バスでさっき京都に着いた」
「・・・・・言ってくれたら良かったのに」
志信が片手に新聞を持っている。桜子はポストに新聞がなかった訳を知った。