さくら
そうなったら、もうあの優しい温かい腕の中に桜子の居場所はなくなるのだ。
なんとなく寂しくて
無性に切なくて
微かに胸が痛んでも
志信は妹のような他人の桜子より、あの綺麗な人のような恋人のものになるーーー。
それを哀しく思う権利なんて自分にはないんだ・・・・・・・・・・。
逃げるように藤子の病室まで戻ってドアを開けようとしたとき、話し声に気付いた。
「もっと気の利く年配の使用人を雇うべきやないの?高校生なんて遊ぶのに一生懸命で役に立たへんでしょう」
「貴子さん!桜子ちゃんは使用人と違います!」
「昔、住込みで働いてた看護師が勝手に父親のいない子を産んで死んだからって引き取って育てる義理はあらへんでしょ。高校まで行かせてやってお人好しにも程があるわ」