さくら


「悪かったな、桜子。すぐに帰ってきてやれなくて」
志信の手が桜子の頭を撫でる。桜子がこの家に来てからずっと変わらない、頼りになって、優しくて、つい縋りつきたくなる温かい手だ。

言葉が上手く出なくて、ただ首を横に振る。

きっと連絡を受けてから、精一杯頑張って帰国してくれたに違いないのが桜子にはよく解る。

「オヤジは?」

「毎朝7時に起きられますからもう暫く待ってあげて」

「そうか」
何かを考え込むような志信の顔に、桜子は心がつきんと痛む。

「志信さん、お風呂入って来た方がええかも。直ぐに沸かせるから」

志信が桜子の方を向いて微かに微笑する。

「やっぱオレ臭い?」

「少し」

「結局帰って来るのに丸2日以上かかってるしな。オヤジに会う前に身奇麗にしとくか」
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