さくら
「あら、珍しい人がいる」
藤子が車椅子に乗り、看護師に連れられて病室に戻ってきた。
「久しぶりねえ、朝倉くん」
「ご無沙汰してます」
志信と朝倉が藤子を両側から支えてベッドへ移す。
「藤子お母さん、朝倉さんがシュークリーム持ってきてくれはったよ」
「ありがとね、朝倉くん」
ほんの少し動いただけなのに藤子が苦しそうな息を漏らす。
「志信、わたし来週には家に帰りたいわ」
「え・・・・・藤子お母さん、帰るって・・・・・」
藤子がすっかり筋張ってしまった両手で桜子の手を握った。
「これ以上良くならないなら、最期は家がええのよ」
そう言って藤子が穏やかに笑う。
全てを知ってしまっている藤子の前で、どんな言葉も見つからない。