さくら
「桜子ちゃんはええ子よねえ。ウチの息子がせめてあと10歳若かったら嫁に貰うのに」
おばちゃんまで会話に参加してくる。
「そういやこないだ角の酒屋の次男が桜子にフラれたって嘆いてたな。お兄ちゃん、妹はモテモテやで」
「モテへんよりモテたほうがええやろ」
「ウチの将太が桜子ちゃんを嫁にするって言うてるからもう少し待ったって」
「将太幾つだよ」
「10歳」
夫婦で声を揃えて答えが返ってきた。
「アホか」
昔と変わらず軽口を叩けるこの関係がありがたいーーーー志信はそう思っている。
「まあ、まず桜子よりお前やろ。アフリカ行くまで付き合っとった彼女はどうした?」
「アフリカ行く前に別れた。付き合いきれんて言われて」
研修医になる前から長い間付き合っていた彼女だった。