さくら


結婚するタイミングがなかったかと言われれば嘘になる。ただ志信が踏み切れなかったのだ。

「医者いうだけでこれからなんぼでも寄ってくるやろ。意外と近場に幸せなんて転がってるもんや」

「だったらいいけどな」




髪の毛もさっぱりして、やっと本来の自分に戻ったような気がした。家に戻ると来客なのか、玄関に女性の靴がキチンと揃えて置いてある。

リビングの方から聞き覚えのある声が聞こえてきて思わず乱暴にドアを開けてしまった。

「あら、志信さんお帰り。帰ってきたなら挨拶くらいなさいな」

貴子がソファーに座って悠然とお茶を飲んでいる。ローテーブルの上にはノートが広げられて置いてあり、桜子が志信の方に少し顔を向けて困ったように笑った
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