さくら
お風呂が湧いたことを知らせる音楽が鳴る。ぼんやり玉ねぎを剥いていた手を止めて、リビングのソファーに座ってテレビを観ている志信に声をかける。
「おー、サンキュ」
「新しい下着と部屋着、出しておきました。鏡の裏の棚に多分院長先生のシェービングクリームと新しい剃刀が入ってます」
「桜子」
「はい?」
「一緒に入る?」
「志信さん!」
「昔はしーちゃん、しーちゃんって風呂もついてきてたのになあ」
軽やかに笑いながら志信はバスルームに向かった。
脱衣所で服を脱ぎながら、志信はふと考える。そういえば桜子はいつから『志信さん』と呼び始めたのか・・・・・
10歳のとき、この家に来た桜子に『しーちゃん』と呼ばせたのは自分だ。