さくら


桜子が早く自分に慣れるように。

桜子が早くこの家に馴染むように。

一人っ子の志信が年の離れた妹がいたら、きっとそう呼ばせていただろうと考えて・・・・・。

久しぶりのバスタブに浸かると、志信の好みの少し熱めのお湯。

ちゃんと覚えていてくれたことが嬉しい。この15年の間に桜子は後藤家になくてはならない存在になっている。彼女の生い立ちを考えれば、心折れて性質が曲がってしまっても仕方ないと思うのに、真っ直ぐな心優しいたおやかな娘に育った。

多分に父や自分、そして亡くなった母が慈しみ育てたからだと思っている。

そんな遠くない未来には、この家から嫁に出してやる・・・・・志信はそう考えていた。

お湯を両手ですくい、ばしゃりと顔を撫でる。
< 7 / 129 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop