さくら
「ずうっと『しーちゃん』って呼んだらええ」
「しーちゃん・・・・・」
桜子が泣き笑いのような表情を浮かべた。
桜子の前髪を持ち上げ、綺麗な丸い額に志信が唇をおとす。
桜子の身体がピクンと跳ねる。志信の大きな手の平が桜子の両頬の涙を拭う。視線が合うと恥ずかしそうに微笑む桜子を志信はまた自分の胸に閉じ込めた。まるで大切な宝物のようにーーーーーー。
どのくらいそうしていただろうかーーー
リビングの隅にある電話の呼び出し音に桜子が弾かれたように反応し、志信の腕から離れて電話に出た。
「しーちゃん、達也さんとこの将太くんが喘息の発作が出たって」
「すぐ連れてくるように言うて」
電話を切った後、準備をするために桜子と志信は診察室へと向かう。2人の間の優しい時間にお互いが心を残しながら・・・・・・・・・・。