さくら
七
再開した後藤医院は概ね好調だった。桜子は今まで志信の診察を見たことがなかったけれど、志信は性格通り患者には優しい、穏やかな医師だった。
「桜子ちゃん、志信くんは立派になったねえ」
近所の年配の患者さんがみんな口を揃えて言う。
「後は早く奥さん見つけなアカンなあ」
首肯しながら桜子は曖昧な笑みを浮かべる。
藤子が逝き、聡志も居なくなってしまったら志信は独りぼっちになってしまう。志信の寂しさを埋めてくれる温かい人が見つかればいいと思う。
「誰かいい人がいたら紹介してあげてくださいね」
笑顔で言葉を返す桜子の心の中は、もう傷だらけなのを誰も気付いていないけれどーーーーーーーー。
軽快なハサミの音が響き、聡志の髪が整えられていく。
「いつも悪いなあ、達也くん。日曜日は稼ぎ時やのに開店前にウチに来てもろて」