さくら
車から降りようと、ドアに手をかけた。
「桜子」
朝倉が呼び止める。
「いいこと教えてやるから耳貸せ」
肩を引き寄せられて、桜子の右耳に朝倉が顔を寄せる。あたる吐息が少しくすぐったくてすくめた首に朝倉の唇があたり、一瞬ちりっと痛みが走った。
「・・・・・・・・・・朝倉さん?」
「うん、まあ頑張ったオレへのご褒美というか、志信への嫌がらせというか」
朝倉の口角が悪戯っぽく上がった。
「・・・・・・・・・・?それじゃ」
今度こそ桜子はドアを開けて車の外に降り立った。
朝倉の車が見えなくなるまで見送ると桜子は家の中に入る。
リビングから光が漏れているから、志信がまだ起きていることが分かる。
「ただいま、しーちゃん。遅くなってごめんなさい」