さくら
桜子の頭に、昨夜のことが浮かび声をかけることを躊躇する。
気配を感じたのか志信がゆっくり桜子の方を振り返った。
昨夜のキスの意味は?
何にあんなに腹を立てたの?
聞きたいけれど桜子の喉にはまるで何かが詰まっているように声が出ない。
「親父、起きた?」
普段と変わらない声で問われ、桜子は首を横にふる。
「久しぶりに開けたけど雨戸、開けにくいな。滑りが悪いし音も凄いし」
「・・ ・・・・・・・・少し持ち上げるようにして開けるとええの」
桜子が口元をほんの少し緩めて答える。
志信が近付いてきて、桜子の頭を抱え、自分の胸に押し付けた。
「・・・・・・・・・・昨夜は悪かったな。怖かったか?」
いつもの柔らかい志信の声が頭の上から聞こえる。
桜子より少し高い体温。
本来なら居心地がいい志信の体温が、今朝はなんだか落ち着かない気分にさせられる。