21時の憂うつ
捕まれていない方の手で必死に剥がそうとしても力が入らないのだから出来る訳がない。

懸命にもがく私を先輩は何も言わず見ていた。

「当たりか。それは面白くないな。」

「面白くって…。」

「先を越されたのが面白くない。」

返す言葉もなくなって開いた口も塞がらなかった。

何を言っているのだろう。

いや、自意識過剰な思い込みをしたらなんとなく理由は分かるけどそれは有り得ない。

可能性としてそれがないならどうしたらいいのかお手上げだ。

困り果てて瞬きを繰り返す私に気付いたのか、先輩は優しく腕を解放してゆっくり下ろしてくれた。

「…早く異動願い出せよ。」

「出し続けてますけど通らないんです。受け入れ先がないのだと言われました。」

誰もお前を欲しがっていないと嘲笑われていつも終わっているのだ。

29歳、もう転職をするのも厳しい年齢だと思う。

辞めるという選択肢が持てない私はここで耐えていくしかないのだと諦めた。

そんな日々が続いてどれくらい経っただろう。

もう上司に対して怒りの感情は無く、諦めと虚無感を抱くようになってしまったのだ。

これはマズイと自分でも分かっているけどどうしようもない。

いつか仕返ししてやろうかという恨み節が波に乗ってきたのを何とか知らないフリをしている状態だ。

「…それは話が違うな。営業企画がお前を取り戻そうと動いてるんだぞ?」

「え?」

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