21時の憂うつ
欲に素直というか、素直すぎて幼いというか、いやいやその前に私が対象にされていることが問題なのだけど。

「好きな奴でもいんの?」

「え?いや、いませんけど。」

「だったらいいじゃん。いても遠慮しないけどそろそろ本気出したかった頃だし。」

「そろそろ?」

「そうだよ。俺、けっこう前から日比谷の事好きだったから。」

しれっと告げられた電撃が走りそうな台詞に私の目も口もこれでもかってくらいに空いてしまった。

それは絶対に嘘だと私の細胞1つ1つからも抗議の声が上がりそうなくらいに異議がある。

いや、きっと私以外にもこの梅井八雲という人物を知る人は皆手を挙げるだろう。

「いやいやいや!それは信じません!」

「何でだよ。」

「だって先輩、根っからの仕事人間じゃないですか!!」

そう、この目の前でキョトンとして首を傾げる男は誰もが認める仕事人間だ。

プライベートな時間も平気で仕事にあて、休日返上で走り回る。

そのおかげという訳でも無いが営業成績は確かなもので部内一を誇る記録を叩きだしているのもこの男。

何度か浮いた話は耳にしたことがあるものの、長続きはしなかったという結果も付いて回っていたことからお相手に同情したことも一度や二度じゃない。

さすがはトップクラスの営業マンは口が上手いのでその場ではよくモテる。

探そうと思えばすぐに相手は見つかり彼女が出来なくて悩んでいるという話は聞いたことが無かった。

だから先輩に恋人がいたとしても何となく、またか、という印象を持ってしまうのだ。

そんな短期間の相手にはされたくない。

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