21時の憂うつ
「全力で辞退します。お断りします。先輩は会社と結婚してください!」

「…凄い言われ様だな。まあ確かにそう思われても仕方ないか。」

顎に手を当てて唸り声をあげる先輩は、過去の自分に対する印象をよく分かっているようだ。

私の気持ちが少しでも分かるならここで引いてほしい。

そんな思いを込めて力強く何度も頷きながら私は先輩を見守った。

引け。寝言は寝て言ってくれ。迷走は1人でやってくれ。

「なあ日比谷、俺ももう30を超えた訳よ。仕事にかまけて会社に尽くすのにも飽きてきた訳。」

「はあ…。」

「もう俺じゃなきゃこの案件は無理だと盛り上がる若さもないし、調子に乗る体力も無くなったのよ。分かる?つまりは俺も落ち着きたい訳。」

「…うん?…そう、ですか。」

分かる様で分からない説明に眉を寄せて首を傾げていると、分かっていないなと先輩が肩を竦めた。

「要は、脱会社人間。したってことだ。」

「成程。」

「だから日比谷、これで問題は無い訳。オッケー?」

何かおかしい。

その思いが表情に出ていたのか私は片眉を上げて宙を見た。

これでもう安心だと訴える先輩に対して何が安心なのかもよく分からない。

寧ろ土俵際に追い込まれた気がするのは気のせいではないと思う。

「土曜、11時。駅前のロータリーで待ち合わせ。いいか?」

「土曜?駄目です、友達と約束が。」

「じゃあ日曜。」

「はい、それなら…って、ええ!?」

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