21時の憂うつ
「おっ?今日も居たな、21時の姫君。」

聞き慣れた声が耳に入って私の癒し時間はあっさりと終わりを告げた。

またか、そんな諦めが種類の異なる憂うつを呼び込む。

じとりとした視線を浴びせるべく振り返ればやっぱり予想通りのあの人がそこにいた。

「…それ止めてくださいよ、梅井先輩。」

「すっかり名物だぞ?21時に現れる窓辺の君。その眼差しは愁いに満ちて守ってあげたくなるってさ。」

「…何の作り話ですか。そもそも21時にここに現れるのは私か先輩くらいですよ?残業なんてやるもんじゃないです。」

背後から茶化すように現れたのは前に同じ部署で働いたことのある梅井八雲主任、1年先輩で今は営業部に所属している筈だ。

自他共に認める根っからの仕事人間。

ほぼ毎日のようにこの場で現実逃避をする私に3日に1度の頻度で顔を出してくる厄介な人。

するのはいつも他愛もない会話ばかり、殆どが私をからかうような内容の短いやりとりだがそのおかげで逃避から再び戦場へと戻る気持ちになるのだ。

「残業ね~。」

有難い様な迷惑な様な微妙な存在である先輩は今日も爽やかにきまっている。

ああやって疲れていても表に出さないようにしていきたいが、そこまで私には余裕がないらしい。

羨ましいのか見習いたいのか。

1年でここまで差が出るとは思えないから、やはりそこは先輩の凄さなのだろうと私はいつも感心するのだ。

さすがは梅井八雲主任だと。

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