21時の憂うつ
どうやら梅井先輩はここで引き下がってくれないらしい。

やだな、察して引くのは営業には出来ない事なのかしら。

「何?日比谷。」

外の世界を見つめながら面倒になってきたと悩む私に先輩は全く持って容赦ない。

「日比谷。」

何だってこんなにしつこいんだろうとも思うわ、いつもなら言いたくないなら構わないと切ってくれるのに。

「…っひゃあ!」

「日比谷、続きは?」

何が起こったのか状況を理解するまでに数秒間頂きました。

いつの間にか私の目の前にあるのは少し不機嫌そうな先輩の顔、目が若干座っていませんか。

どうやら私は先輩の手によって無理矢理顔を向かされたらしい。

それはどうやってかというと、顎にある違和感で正体がやっと分かった。

ごつごつとした大きな手で顎を掴まれ強引に振り向かされているのだ。

「ちょ、やめてくださいよ!」

慌てて手を外して距離をとっても先輩の表情は不機嫌なままだった。

何だか面倒くさいことになりそうな予感が働いた私はその勢いのまま逃げることにする。

冗談じゃない、まだまだ仕事が山の様に残っているんだから。

「もう戻りますね!じゃあ先輩、お疲れ様でした!」

こういうときは逃げるに限る。

半ば不機嫌に歩き始めようとした私の思考はもう次へと切り替わっていた。

席に戻って右側にある束を順番に片付けて。

< 7 / 17 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop