千年姫の幻想界
「よし、いくぞ……」
──魔界の端の、大きな町。
三階建ての一室で、一人の青年が深呼吸していた。
そして……
「ΤёlepoЯtatioи──……」
魔法書片手に、複雑な呪文を唱え始めた。
呪文に反応して光り出す魔法陣の文字を見つめ、時折魔法書にも目を移しながら唱え続け……
最後の一行を、力強く言い切った。
……が。
キィィイイ───ン──……
静かな不快音を響かせて、急速に光が失われていく。
「あ……」
言った時には遅かった。
パアンッ!
魔法陣から弾き出され、咄嗟に受け身をとる。
流し込んでいた魔力は、すっかり消滅してしまった。
「……はぁー……」
倒れたまま、ぐたーっと脱力する。
「いけると思ったんだけどなー…今度は…」
教授に言われた事を思い出す。
──応用瞬間移動魔法を成功させたら、応学証をやろう──
「そう簡単に、応学は取れないか」
むくりと起き上がり、髪を掻き上げる。
彼の名前はトキヤ。
魔界の海に面した大陸“アゲート”の、超有名大学に通う学生だ。
サラサラの茶髪に、透き通った淡い水色の瞳。
スッと通った鼻筋に薄い唇。
誰から見ても美青年な彼は、折角サラサラな髪をグシャグシャと掻いた。