千年姫の幻想界

彼の取りたがっている“応学証”とは、“応用魔法第三学生証明書”の略で、簡単に言うと“将来を約束する切符”。


アゲートで最も頭の良い大学に通う彼らは、更なる難題を解いたとき、その実力が認められ将来が保障される。

その証が応学証だ。

条件は瞬間移動。

魔界の一番遠い“セレスタイト”に移動できたら、応学証が手に入る。

その距離約7万キロ。

この距離を大学生が移動することは、まずない。
せいぜい隣国の“スピネル”程度。
そもそも、大人ですら出来得ない技である。

だからこそ……成功させたい。



課題を言い渡された一ヶ月前から、毎日三回づつ挑んでいた。

三回以上は魔力を消耗しすぎてしまう。

応用魔法第三学生証明書の第三とは、“一日三度まで”と言うレベルを表している。


今日残されたのは後二回。

失敗した魔法陣を消し、新たに杖を動かす。
フローリングの床に、焼けたような跡が付いていく。

慎重に、少しづつ。
狂い無く、確実に。

目線を反らさず、杖の先に魔力を集める。

常人なら2時間かかりそうなものを、30分で書き上げた。

それが、彼の実力を物語っている。


「ふー……」

一度力を抜き、息を吐く。

チラッと時計を見ると、時刻は7時5分前。


失敗したら夕食にしよう。
成功したら……速攻、教授に連絡だ。

後者を望みながら、鞄を肩に掛け直す。

そして、先程と同じように……いや、先程よりも丁寧に、呪文を唱え始めた──……。

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