千年姫の幻想界
───
──



はっ、と息を飲んで目を覚ます。

右手が天井に向かって力なく伸ばされていた。


「…………」


いつもの朝。

カーテンからは、眩しい光が漏れている。




右手を下ろし、ぼやける視界をカレンダーに移す。



──ああ、

今日もか。




二年ほど前から、毎月決まった日に同じ夢を見る。


誰だかは分からないが、透き通った少女の声に、硝子が散ると共に目が覚める。

──切なさと痛みを胸に残して。


二年も続いているのだから、何か意味があるはずだと探し回ったこともあった。

だが、どう調べようと夢の正体が明かされることはなかった。


彼は夢を予知夢ではなく、刻まれた記憶だと考えていた。

ぼんやりと浮かぶ光景は、自分の住むこことは大きく異なる雰囲気だった気がする。


──前世か?

それならば、納得が行く……はずなのだが。


「何か違うな……」


夢から覚めたときのこの気持ちは何なのだろうか。

懐かしくて、切なくて、酷く胸が痛い。

大切なものがそこにはあると、心の何処かが叫んでいた。

前世よりもっと近く……そう、夢を見始めた二年前に、それは眠っている気がした。

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