こんなお葬式【長篇】
病室───。

そこに横になる御遺体は、明らかにおばあさんの旦那さんだ。

顔には白い布が被せられ、綺麗に布団が掛けられている。

遺体というものは、そこにただ横になっているだけで生気が感じられない。

……僕の一番緊張する瞬間。

もちろん病院への搬送の仕事は、病気から亡くなる人が多い為、死亡時刻からの時間の経過は短い。

即ち、遺体の損傷の度合いは低いのだ。

死後幾日も経っているであろうそれとは、比較にならない。

それでも、人が死んでいるのを目の前にしながら、顔や体は伏せられているのである。

顔の布をはずした時、中には目を見開いている時もある。

布団をはがした時、中には硬直した体が苦しみを表現している時もある。

そんな時はやはり、慣れて来たとは言え心が縮まるのだ。

その『おじいさん』は、闘病の為かすっかり痩せこけながら、しかし、優しい面影をたっぷりと残して、穏やかに瞳を閉じていた。

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