こんなお葬式【長篇】
次の行動が予測出来ずに、手を前で組みながらソワソワとしつつも、

─今から動くのよ。看護婦さんにはお世話になったから挨拶しとくわね。

荷物を抱えながら、おじいさんに話かけるおばあさん。

始終気にかけながら動向を見つめる目に、夫婦間の重みと呼吸を感じる。

死の直後にどれ程の用があったのか、病院を離れたのは余程の事だったんだろう。
出会って短時間。
しかし、何故か雰囲気からそう感じてしまう。

ゆっくりと、ストレッチャーを二人で押しながら、もと来た廊下、もと来たエレベーターを引き返す。

当然と言えば当然だが、ストレッチャーに寝かされた遺体は、眠っている『患者』を運ぶ様相とは違う……。

布団を掛けられたさらに上から白いシーツで全身を覆う。

揺れが激しかったり、段差が多い場合は、ベルトでしっかり固定する。

明らかに一目で『遺体』とわかる状態で運ぶのである。

例え昼間の廊下であっても……。

重みが増した分、ガシャガシャと云う音は、幾分かマシになりながら『運ばれる』のである。

遅れて看護士と担当医が後をついてくる。

出口までの間、おばあさんは本当にずっと、言葉を変えながらお礼を言っていた。

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