こんなお葬式【長篇】
─それと、ご自宅遠いですよね?もし良かったらお連れしますよ。戻られるのは何時頃と考えておられますか?

─えっ、いやいいんですよぉ。そんなにお世話かけたらあの人に怒られますから。

予想通りの反応ではあるが、金銭の段取りの必要はもうないはずである。

─いえ、今から先程のお話を見積書にあげさせて頂いて、正式にお客様ですしお世話するのが仕事ですから。

─ほんとに何から何まで……ありがとう。昼すぎに納棺とおっしゃってましたから、それまでに。

やはり帰ると言うおばあさん。単なる忘れ物で、金銭段取りではないとしたら、尚更電車で長い時間をかけて一人わざわざ帰すのは気が退ける。

疲れていない訳はないのだから……。

─今から社に戻って段取りしますので、済み次第お迎えに来ますね。

そう言って僕は、先程話した通りの見積書を丁寧に作成し、おばあさんに再度確認した。無論、おばあさんは頷くだけで、しかしやはり真剣に話を聞いていた。


< 56 / 257 >

この作品をシェア

pagetop