こんなお葬式【長篇】
人と話すのが好きなのか、世話になっているという思い込みと、送ってもらっている事への恐縮や気遣いなのか。

常に意識をこちらに向けているのがわかる。こんな時でも、僕に気を使っているのだろう。

少し小雨がパラつき出した頃、車はおばあさんの住む町内に入った。

会館や社のある近辺も然程都会ではないが、それよりまだずっと郊外まで車を走らせた。

おばあさんは、丘の上に立ち並ぶ集合団地を指差し声を上げる。

─あそこなんですよぉ。

距離と時間を考えてみると、やはりお連れして正解だった等と考えながら、団地の敷地に入ろうとした所で。

─ここで結構ですよ。

と、おばあさんはそれ以上の侵入を制した。

─え、棟の前まで行きますよ。

─いえ、もうすぐですから……。それにお車にお名前書いてあるでしょ。お葬式屋さんが来てると、周りが……ね。


迂闊だった……。

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