東京血風録2-緋の試練

3 追跡








 人は儚き夢を見る。
 儚きものと知りながらもまた夢を見る。












 霧華の夢。
 ひどく朧で、耳障りのする、粘り気のあるまとわりつくような夢の中。 
 現実と虚構の狭間で揺れ動く。


 限界が訪れようとしていた。
 このまま、死んでしまうのかと思った。
 それでも、寝てしまえばまた朝が来る。

 霧華は、怒号で起きることとなった。
 叫びは拉致した男のものであった。
 これ現実?はっきりしない意識の中断片を要約すると、次のようなことを喚いていた。

 一に、自分の不甲斐なさを。
 一に、仲間(?)との連絡がないこと。
 そして、全てがうまくいかない呪詛であった。


 寝起きの霧華は、状況も判断できず、思わず反論してしまった。
「地獄へ堕ちなさい。この下衆が」


 男は、一瞬で逆上した。
 これも、鬼児の為せることなのか、男の容姿が変化していた。その爪は、伝承や物語りに描かれるように、長く鋭く伸びていた。
 霧華を張り倒そうとした男は、その爪がどうなっているのかわからないかのように、大振りしてきた。
 避けようとした霧華は、背中を向けた。
 ざっくりと肉が切れる感覚があった。
 二度、三度。
 変に痛みはなかった。
 痛覚が鈍っているのかも知れなかった。
 首を捻り、髪の隙間から身体の状態を窺うと、腕と肩、それに続く背中も斬られているようである。
 今更、血が蕩々と流れ出る感覚があった。

(これ、ヤバいかも)
 霧華は、変に冷静だった。
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