東京血風録2-緋の試練







 遡ること、霧華が大怪我するちょっと前時間は午前8時を過ぎた頃。

 伽藍学園屋上に、摂津秋房の姿があった。

 その瞳は、虚無を映し出していた。何物をも感じさせない、漆黒の深淵。
 その奥にあるのは、絶望か悔恨か。

 屋上から見つめる視線の先には、霧華を拉致した男の、潜伏先があった。


 屋上と下界を繋ぐ扉が開き、人影の気配を感じた。だが、振り向きはしない。

「お願いがあって来ました」人影が息を切らしながら云う。
 王道遥である。
「何も、手掛かりさえ見つかりませんでした。多分、摂津さんの指示で動いているのではないでしょう。
お願いがあります。知ってるのなら、監禁している場所だけでも教えて頂けないでしょうか?」 
「何故、僕が介在していないと言い切れるのかね?」
「品位の気高さの“差“ですかね。
犯人の彼には、それがありません。それにあなたは因縁の決着をつける為に、僕達を長野県まで呼んでいる。そういう人が、こんなことはしないと思ったからです」
 摂津は、いかにもつまらないと言わんが表情で、
「買い被り過ぎるなよ」と呟いた。

「無論、ただでとは云いません。
あなたの支配する人達を、障害として立ちはだからせて下さい。僕はその方たちを超えていきますから」
 摂津は少し考えて、
「全く、ご都合主義まっしぐらだな。
僕がそれに付き合うとでも?」と。
「長野が待ってますから。決着をつける為、尽力いたします!」
 遥も負けていなかった。恥も外聞もなくこうして怨敵の前へ来ているのだ。


 摂津は、にやりと口角を上げると、こう言い放った。
「3人だ!3つの壁を設けよう。容赦はせん。そこで斃れたのならそれまでの漢ということだ」
「ありがとうございます!必ず辿り着きますから」
 遥が深々と頭を下げていると、摂津が横を通りすがら、
「校舎を出た所から始めるぞ。監禁場所は携帯に電話する」
と残し、出て行った。

 遥がふと足許を見ると、小さな紙切れが落ちていて、拾って見ると11桁の携帯番号が書いてあった。
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