東京血風録2-緋の試練
4 大鉄と無良
大鉄。そう呼ばれた男である。
身長は190センチに近いだろう。飛鳥のように制服がはちきれんばかりにはなっていないが、筋肉質の肢体であることは判る立派な体躯であった。体重も90キロ近くあるだろう。
飛鳥は無良の所へ向かっていた。
摂津の姿はもう消えていた。
無良。茶髪の長髪は彼の眼を半分以上隠していた。かろうじて覗くその眼には、静かながらも殺意が秘められていた。
飛鳥の姿を見咎めると、身体を軽く上下し始めた。それに低い足踏みが続く。
ステップを踏んでいるのだ。両腕をダラリと下げたままステップを踏む様は、ノーガードのボクサーをイメージさせるが、ステップそのものは功夫(クンフー)のそれに近い。
2人の距離は近づき、お互いの射程圏に入ろうとしていた。
飛鳥は反芻していた。
彼は空手出身の格闘家だが、色々な格闘技を習得するべく、マーシャルアーツを習っていたことがあった。その時、身体に叩き込んだ情報を、身体の隅々にダウンロードする。左手は肩の高さに、右手は右顎の横、脇を締める。アップライトスタイルが完成した。両脚は肩幅、膝を軽く曲げ重心を落とす。空手の三戦立ちである。
2つのスタイルを融合させた、飛鳥独自のスタイルであった。
一方、大鉄と遥は睨みあったまま、膠着状態が続いていた。
「遠慮はいらん。打ち込んでくるがいいぞ。素手相手では踏み込めないかい?」
図体に似合わず、惚けた言い草だ。
そう言った大鉄は、すぅ、と息を吸い込むとふんむ、と力を込めた。両腕を斜め下方に突っ張って、滑稽な姿になっておったが、息を止めて顔を紅潮させると同時に両腕がぱんっ!と膨れ上がった。
元の太さの三倍はあろうか、丸太の様な腕に変化していた。制服が破れるかとおもうような太さだが、制服は破れずにあり袖先から覗く手の色は、炭のような乾いた黒色に変色していた。
「さあ!ガンガン来たまえ!」
遥は木刀を正眼に構えた。