東京血風録2-緋の試練
「ほぉ~、新技かい?」
好奇心旺盛な子供のような顔で、大鉄は微笑んだ。
燃え盛る木刀を手に、遥は大鉄に斬りかかった。
2撃、3撃。
丸太のような腕に弾かれ、その度に火の粉が上がった。
一度距離をとって、様子を窺う。制服は焦げたようだが、腕自体にダメージはないようだった。
(これ完成?、、、完成か?)
遥は伊號丸に訊いた。
(うぅん、、、、まだじゃ。なんかしっくり来んわ)
伊號丸の言葉は本心だったが、それ以上に念の質が気になっていたのだ。
もっと、出力を上げる事も可能だろう。
だがそれが、良からぬことが起きそうな気配を払拭できずにいた。
遥が再度、挑もうかと動いた時、大鉄が動いた。
遥が上段に構え斬りかかった時、大鉄がスッと距離を詰めた。構えた両腕の先に左手をサッとあてがった。可動範囲を失った遥は動けなくなったのだ。そこへ、大鉄が一歩踏み出してラリアットを狙っていた。
最初からこれだけを狙っていたような俊敏な動きだった。
通常、プロレスのラリアットは、走り込んでから相手の首へ腕を絡みつける様に叩き込むのだが、大鉄のそれは立ったまま腰の回転だけで勢いをつける、スタンディングラリアットと呼ばれるものだ。狙っていただけあって、スピードとタイミングはドンピシャだった。
丸太のような腕が遥を襲う。両腕を挙げたままの遥の顔面にそれが迫った時、遥の取った行動は。
向かっ来る腕に逆らわず、当たる瞬間に自ら後方へ飛んで、バック転した。
思い切り振り抜いた大鉄の腕のした、かいくぐる様に腕に絡みつく様に、大きく身体が一回転した。
大鉄の腕の振りの衝撃は激しく、遥の身体は大きく浮き上がった。
空中で体勢を整えると、遥は再び木刀を上段に構えていた。
着地すると同時に木刀を振るっていた。
後方へ身体が流れているため、中腰になり身体を支え、砂埃を上げながら振り抜いた姿勢で止まった。
赫く燃え盛った伊號丸は、火の粉を上げながら振り抜かれ、それに乗った斬撃は赫い弓形の衝撃波となって、大鉄を襲った。
これが完成形の“紅蓮斬”であった。