東京血風録2-緋の試練
王道遥は勝負を急いた。
それはそうだろう、4日も行方不明だった姉の所在が判ったのだ。慌てもしよう。
狙うは正眼からの”血風吹きあれん”の突き一撃である。
先手必勝、一撃必殺の技でけりをつけようという算段である。
木刀の切っ先には気流が渦巻き、臨戦態勢は整った。
踏み込む疾さ、距離の詰め方、狙いと突きの疾さ、どれを取っても最上級であった。
遥の持てる渾身の一撃だった。が、
セプテンバーの身体に触れることはなかった。
遥の狙いは、腹のど真ん中”鳩尾”である。
セプテンバーのの身体はというと、その場から動いてはいなかった。
遥の一撃は、セプテンバーの鳩尾を完璧に貫いていた。
しかし、そこには胴体が無かった。
左脇腹だけを繋げ残し、ぽっかりと穴が開いたのだ!
その腹の穴の中を伊號丸は通り過ぎる。
目標を失いながらも、遥の慣性は止まらず、セプテンバーのの身体に最接近した。
その時である。
腹に開いた穴の断面に小さな牙が生えるや否や、ぱくんっ!ど閉じた。
噛みついたかのように。
一瞬早く、必死に腕を抜いた遥だったが右手の側面と右腕の側面を、細かい牙が掠っていった。
パッ!と、血の花が咲いた。
あと寸前の差で、伊號丸ごと持って行かれる所だった。
考えるとゾッとした。
セプテンバーのそれは、言わば“顎(あぎと)”であった。
近づき過ぎた!そう思慮の上、遠ざかった遥であったが、それすらも遅かった、
セプスの太腿と指先は、顎(あぎと)と化し上下から襲っていたからだ。
遠ざかった遥の太腿はばっくりと裂かれ大量の血が噴き出した。
うぐぅ。遥は声を殺したが、呻き声が漏れた。
致命傷になるような傷口と出血である。
(遥殿!儂を傷口へ!)
伊號丸が、心の声で叫ぶ。
(止血は無理じゃが、感覚を麻痺させ痛みを抑えようぞ!)
遥は言われた通り、太腿へ伊號丸をあてがった。痛みがぼやけていくのが分かる。
痛みは無いのに、血が止まらない。不思議の感覚を味わう。
遥の血もまた色素が薄いようである。
緋色の血液が、制服のズボンと地面を染めた。
遥は立ち上がった。
太腿からは、血が噴き出ている。
時間がなかった。
勝負は、あと数秒以内に決しなければならない。