東京血風録2-緋の試練
藤堂飛鳥は、摂津が教えた地点のそばまで来ていた。
この辺のハズだ。
飛鳥が考えていると、風に乗ってある臭いが鼻を突いた。
ざわっと、肌が粟立った。
血の臭いだった。
格闘家ならではの、場の嗅覚である。
血の臭いのする方へ走り出すと、制服姿の男が立っているのが見えた。
飛鳥の頭の中で、何かが弾けた。
体中の血が沸騰した。
飛鳥が走り込む。空手の型の姿勢。
貝原は、無防備に突っ立ったままだ。
距離が一気に詰まると、飛鳥は正拳突きを繰り出した。左、右、左。
疾い!
その度、相手との反発のため空気の膜は張られ、弾ける衝撃波となり貝原の身体を襲う。
藤堂飛鳥式反発型の打撃である。
身体が動く。飛鳥は自身が最高の状態であると確信した。
直接の打撃ではないため、離れた位置から攻撃が出来る。
貝原が動く前、既に12発の手数を放っていた。それらは弾かれて、力の濁流となって一気に貝原の身体に襲いかかった。
身体が思い切り後方に飛ばされ、アパート二階へ続く階段へ激突した。
貝原が驚いた表情で、飛鳥の行方を追った時、飛鳥はもう目の前にいて、右の拳を振り上げていた。
飛鳥に殴られた。
背中には階段があり、力の逃げ場がなかった。
貝原の意識があったのは、そこまでだった。
強い。
自分で自覚した。
これが本来の自分のスタイルで、在るべき姿なのだ。
自身が湧き上がる。
飛鳥は顔を上げ、階段を上がろうとした。血の臭いは、二階からだ。
多分そこに、霧華がいる筈だ。
階段に足を掛ける。
貝原の体を避けようと少し右に寄っていたのだが、更にその右の隙間を人影が、猛ダッシュで駆け上がっていった。
その後ろ姿は、女性のものだった。