東京血風録2-緋の試練
霧華のいるアパート、二階への階段。
走って追い抜いていった女性の後を、藤堂飛鳥は追った。
二階の廊下の先に女性が見えた。真っ直ぐ、霧華のいる部屋へ入っていった。
飛鳥が部屋に到着した頃には、彼女は何やら言葉を発しながら、胸の前で組んだ手のひらを離していった。
淡く金色に光る手のひらを、屈みながら霧華の傷口へあてがうのであった。
霧華が、くっ、と小さく呻くのが聞こえて、反応があったことに飛鳥は心底安心したのだった。
「大丈夫ですよ。大丈夫」
そう呟いた後ろ姿の女性は、さっぱりしたショートボブである。
龍王院真琴の姿がそこにあった。
「あ、あんた、奈良へ帰ったんじゃないのかい!?」
飛鳥が大声で問い質す。
「柊一様の命に依り、監視させていただいておりました。
それによって、こうしてお役に立つことができましたわ」
顔を紅潮させながら、微笑を返す。
小さな言霊を呟きながら。
飛鳥は思った。たしかこの治癒法術は体力を著しく消耗する筈だ。
4日間も監禁されていた女性一人を治すのに、どれほどの体力がいるのだろうか。
改めて部屋の中を見回してみると、実に殺風景であった。家財というものがまず見当たらない。どんな生活をさせられていたのかが、容易に想像できた。
そして、部屋中に飛び散った、夥しい量の血痕と血だまりである。遥が心配していたのは、霧華の体力である。元々、体が丈夫な方ではないらしい。心配だ。
そこに至って、遥に連絡をしなければと思い立った。
飛鳥は携帯電話を取り出すと、遥の電話番号をダイヤルした。
静かな着信音が流れた。
アパートのドアの外で。
飛鳥は振り返った。
そこには、ドアにもたれ掛かるようにして立つ、満身創痍の遥の姿があった。
「姉…さん…………」
そう言うのが精一杯であった。