リナリアの王女

 ―コンコン―

扉を叩く音で目が覚めた。
やはりというか、目が覚めても景色は変わらないままだった。
薄々分かっていた事とはいえ、悲しみが込み上げてきた。

『エリーゼ様、お食事をお持ち致しました』

少女のような声がしたと同時に静かに部屋の扉が開かれた。
『失礼致します。お休みになられていたのですね』
メイド姿の少女が部屋へと入ってきた。
この世界に来てクラウド以外の人に会うのは初めてだ。
「あなたは?」
『私はエリーゼ様専属の侍女のサラでございます。何か御用がございましたら何なりとお申し付け下さい』
お辞儀をしながらそう言われた。

私専属の侍女って・・・

次元の違いに少し眩暈がした気がした。
『もうお夕食のお時間でしたので、お食事をお持ち致しましたが宜しかったでしょうか?』
「ありがとうございます。えっと・・・頂きますのでそこに置いておいてもらえますか?」
侍女なんて当たり前だがいた事のない私はどのように対応したら良いのかがよく分からなかった。
『私に敬語はいりません。ではこちらに並べさせていただきますね。暫くしましたら食器を下げにまたお伺い致します』
サッと食事をテーブルに並べて彼女はお辞儀をして去って行ってしまった。


「はぁ・・・。とりあえずご飯を頂こう」


正直に言うとこんな状況で食欲などあまりないのだが、作っていただいた上に、暫くして食器を片付けに彼女が来た時に残していたら申し訳ない。
「いただきます」
私はナイフとフォークを手に取り、一人食事を始めた。




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