リナリアの王女
 食事はとても美味しい。

再度言おう。食事はとても美味しいのだが、特に会話もなく淡々と進んでいった。

クラウドを盗み見る。
無駄な動作など一切なくナイフとフォークが動き、彼の口元へと運ばれていく。
この動作一つで気品が漂うのだから王族とは恐ろしいものだ。
急に私がこの場でクラウドと一緒に食事を取っている事が心配になってくる。


私のマナーとか大丈夫なのかな・・・?


そんな事を私はクラウドを見たまま考えてしまっていたらしい。
「どうかしたか?」
食事の手を止めて私を見たクラウド。
「え!?な、何でもない!です」
思いっきり慌ててしまった。

「そうか」
クラウドは少しだけ微笑みまた食事を再開した。
その微笑みが私の心臓の鼓動を少しだけ早くした気がする。
「ごちそうさまでした」
全ての料理を食べ終わり私は手を合わせた。
使用人さんが私の食器を片付ける為に近づいてきた。


「あの、料理を作って下さった方にお礼を伝えてもらえませんか?昨日の夕食も、今日の朝食もとても美味しかったです、と」


本来であれば、自分の口から相手に伝えたいのだが、私はこのお城に不慣れである。
まだ日の浅い私が勝手に場内を歩いてしまうのは良くないだろう。
『畏まりました。伝えさせていただきますね』
私の言動に少しずつ慣れてきてくれたのか、使用人さんは笑顔でそう言ってくれた。


こうして、昨日の夕食とは違い寂しさは感じないが、妙な緊張感を味わいながらクラウドとの朝食を終えた。
食事が終わり、クラウドと共にダイニングルームを出た。
クラウドは私を部屋まで送った後、そのまま今日の執務に入るらしい。

「私はどうしたら良いの?」

恥ずかしい話、クラウドの婚約者として私は何をしたら良いのかまったく分からないのだ。
「エリーゼはまずこの城に慣れる事から始めれば良い。サラを供に付ければ好きなように城内を歩いて良い。今日は城を見て回ったらどうだ?」
「クラウドは仕事をしているのに、私は遊んでいて良いの?」


それはなんだか悪い気がする・・・。


「エリーゼにとっては、まずこれから生活していく城に慣れる事が仕事だ」


私の目をしっかりと見ながらそう言ってくれるクラウド。
その目にはやっぱり優しさが溢れている。
その優しさ全てが私に注がれている事がこうも分かると気恥ずかしさもあるが、もちろん嬉しさの方が大きい。

私を必要としてくれている。

それは王位を継承する為の道具と考えているわけではなく、異世界からきて右も左も分からない私を本当に大事にしてくれようと考えてくれているからだろう。
「ありがとう、クラウド。じゃあお言葉に甘えて今日は城内を探検してみるわ」
ちょっと悪戯めいた言い方をしてクラウドを見上げる。
クラウドもそんな私を見てクスッと笑い、

「ああ、この城は広いからな。探検のしがいがあるぞ」

と言った。




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