リナリアの王女
『エリーゼ様!?どうしてこのような場所に!?』
予想通り、私が厨房に来たらその場にいた人達が驚いてしまった。
「急に来てしまってごめんなさい。ちょっとお菓子を作りたいから、その材料をもらえないかと思って」
『ご要望のお菓子がございましたら私共でお作り致しますから、エリーゼ様はこのような場所に来られなくても大丈夫です!』
ここでもやっぱり作るからと言われてしまった。
『エリーゼ様がご自身でお作りしたいと仰ったのです。必要な材料を分けてもらえますか?』
サラちゃんが私の代わりに理由を説明してくれた。
『そうでしたか。エリーゼ様はどのようなお菓子をお作りになられるのですか?』
この厨房をまとめている感じの落ち着いた男性が私の願いを聞き入れてくれた。
「えっと、今日はマドレーヌを作ろうかと思いまして、良かったら材料と器具を貸してもらえませんか?」
『お安いご用です。今必要な材料と器具を用意致しますので、お待ちいただけますか?』
本当は自分で使うものだから、自分も用意するのを手伝いたいところだが、ここはシェフの皆さん達の仕事場だ。
部外者の私がうろちょろするのは良くないだろう。
「お手数をお掛けしてすみません。お願いします」
私は申し訳なく思いながらも、ここは素直にお願いした。
流石はシェフさん、準備はあっという間に終わった。
『お待たせ致しました、エリーゼ様。必要となる材料と器具はここに準備致しました』
サラちゃんの説明を聞いて、準備を申し出てくれた男性が配膳用のワゴンに乗せてこっちに持ってきてくれた。
「お仕事中にすみませんでした。本当にありがとうございます」
『構いませよ。エリーゼ様のお部屋までワゴンをお運び致しましょうか?』
部屋に運ぶ事までしてくれようとする男性。
「私がしたくてする事ですから、ワゴンは自分で運びます。ここまで準備していただいただけでも申し訳ないのに、そんな事まで頼めません」
私がそう言うと、男性は少しだけ目を見開いて、そして優しく笑ってくれた。
『エリーゼ様は聞いていた通りの方ですね。私共厨房のシェフはエリーゼ様のご挨拶の場に立ち会う事は出来ませんでした。しかし、他の者からエリーゼ様の事はお聞きしておりました。とても謙虚でお優しい方だと』
思いもかけない誉め言葉に私は狼狽えてしまった。