リナリアの王女
 「そ、そんな事ないです。私なんか自分の立場もまだあまり理解していないので、いつもサラちゃんやお城の方に迷惑を掛けてばっかりで・・・」
慌ててどうでもいい事を言ってしまった。
『いいえ、今日実際にエリーゼ様とお会いして分かりました。確かにエリーゼ様のお立場で私共使用人に対し、対等に接される方はほとんどおりませんので、私共も戸惑う事があるとは思いますが、決して嫌な感情を持つ者はおりませんよ』

そうなのだろうか・・・。

私はこの世界に来て毎日、接する特定の人といえばクラウドとサラちゃんのみだ。
他の人達にどう思われているのか正直不安だった。

毎日何をするでもなく、部屋に籠るかバラ園でお茶をするだけの私を見て、クラウドの婚約者として相応しくないと思われていないか不安だった。
この城から、この立場から追い出されてしまったら、私はこの世界で生きていく術がないのだから。


そう打算的に考える自分にもほとほと嫌になってしまうが。


とりあえずこれ以上お仕事の邪魔をしてはいけないだろうと思い、私は今日のお礼とずっと伝えたかった事を言ってこの場を後にする事にした。



「あの、今日は本当にありがとうございました。あと、本当はもっと早く直接伝えたかったんですけど、皆さん、いつも美味しいご飯を作って下さってありがとうございます」



私は伝えたかった言葉をやっという事が出来て、自然と微笑んだ。
私のその言葉に、私と話していた男性だけではなく、その他のシェフの方も作業の手を止めてこっちを見た。
いち早く反応を示した男性はこう言った。
『エリーゼ様が毎回私共にお礼を伝えて欲しいと仰って下さっていたのを存じ上げておりました。こちらこそエリーゼ様のお言葉に感謝したいぐらいです。エリーゼ様が美味しいと仰って下さったと聞いて、自分も含め他のシェフのやる気が上がっておりますので』
その言葉を聞いて私は周りを見た。
先ほどから作業の手を止めていたシェフの方もこちらを見ながら微笑んでいた。
『また何かご入用の際はお気軽に仰って下さい。あと、これからもエリーゼ様が美味しいと仰って下さるような料理をここにいる一同でお作り致します』
男性が頭を下げると他の方も頭を下げた。
「あ、あの!頭を上げてください!!私の方こそ美味しい料理を期待していますので、こちらこそ宜しくお願いします!!」
私も頭を下げてしまって、なんだか可笑しな光景に皆で笑ってしまった。




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