リナリアの王女
 「とりあえず今日はこの部屋でゆっくりと過ごすと良い。この部屋はエリーゼの部屋だからな。食事も持ってこさせる」
クラウドが立ち上がりながらそう言った。
「クラウドさんは?」
「俺の事は呼び捨てで構わない。俺は仕事があるからな。執務室に戻る。何かあったら侍女を呼べば良い」
国王となるクラウドは忙しいのだろうか。
それとも混乱している私に気を遣ってくれているのか。
「混乱しているところすまないが、明日は城の皆にエリーゼを紹介したい。朝迎えに来るから準備をしていてくれ」
少し目尻が下がって申し訳なさそうに見える。


あぁ・・・この人は本当に私の事を大切に思てくれているのだ・・・。


しかし、紹介・・・私なんかで本当に良いのだろうかと不安が募る。
「紹介と言ってもただの顔見せだ。これからこの城で生活するのに困らないようにな。朝食を取るついでだと思ってくれれば良い」
私の不安を感じ取ったのか軽い口調でそう言ってくれたクラウド。
この人は私の感情の変化に本当に敏感だ。
これも昔から見ていたからだというのだろうか。
なんだか少し気恥ずかしい気もする。
「分かった。明日の朝は準備をしてあなたを―――――――クラウドを待っていれば良いのね?」
「ああ。準備は侍女に手伝わせれば良いからな。明日を楽しみにしている」


最後に私の手に口づけをして部屋から去って行ったクラウド。
先ほどの髪の毛といい、今の手といいスキンシップが激しいように感じる。
クラウドは私の事をよく知っているようだが、私にとっては夢の中に現れる男性という意識しかないので、このようなスキンシップをされてしまうと反応に困ってしまう。
私の感情の変化を敏感に感じてくれるのであれば、スキンシップに慣れていないことも分かってほしいものだ。
一人残された部屋で私は頬が熱くなるのを感じていた。




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