長すぎた初恋の延長戦

きみがすき

「あーつーいー…。」
「…あ、ねえ。今から丸井走るっぽいよ。」

たくさん時間をかけて。
ようやくこの想いが恋だという事を自覚出来たのは、体育祭前の事だった。



「…!べ、別に…どうでも良いもん。」
「えー、この前ようやく丸井の事好きだって認めたくせに。」

あれは確か全学年合同の体育の時間。
もうすぐやってくる体育祭に備えての練習だったんだけど、その日は私が文也の事が好きだと自覚した直後で。
思えば一番の醜態を晒してしまった日な気がする。

「そ、そうだけど…別に走ってるところなんてどうだって…。」

どうだっていい、そう言おうとした筈なのに。
前の走者からバトンを貰って走り出した文也を見た瞬間、私の目は文也から一秒たりとも離せなくなっていた。

生暖かい風が吹く度、文也の目立つ赤茶色の髪がなびく。額に滲むその汗が、徐々に首筋まで垂れていく。

…あれ?

「…っ!」

今…一瞬だったけど、私と目が合った瞬間、笑った?
なんて、そんな事で私は一々浮かれたり真っ赤になったり。

とにかくこの頃は、私の頭は常に七割くらいは文也でいっぱいだった。
うん、今考えてみるとちょっとおかしいくらい。

「ほら、そろそろ燈の番だよ。スタートライン立ってなきゃ。」

いつまで経っても走っていた文也の余韻に浸っている私に呆れた様な友達から背を押され、私は慌てて立ち上がるとスタートラインに立った。

…苦手なんだよね、走るの。
まあ私はこの時も例外なく、文也に見られるの恥ずかしいとか、そんな事ばっかり考えてたんだけど。

(バトン…来た!)

緊張の中、走って来た人からバトンを受け取って勢い良く地面を蹴…ろうとした瞬間。

何と無く動かした視線の先、走り終えた文也と目が合ってしまった。

「船瀬ー、がんばれよー!」

周りの声援の声で騒がしい筈なのに、その文也の声だけヤケにはっきり聞こえちゃって。

まさか声をかけて貰えると思って無かった私は、驚きの余り足がもつれた。
しかも上手くバランスを取れなくて…なんとそのまま、

「ッ、わわっ!」

どしん、なんて音がした時にはもう遅い。
気が付いた時には、私は地面とコンニチハしていた。

「いったぁ…。」

張り裂けそうな位痛む膝、それに血まで滲み出てくる始末。
だけど何より、今でもしっかりと記憶に残っているのは…

「おい大丈夫かよ!…てか何であんなとこで転ぶんだよお前は。」

私の所まで走ってきてくれた文也と目が合ったこの瞬間だ。
ダサい、なんてもんじゃない。
もう言葉では表現出来ないくらいに恥ずかしくって。
私は思わず泣きそうになるのをグッと堪えて静かに首を振った。

「大丈夫…あの、保健室行ってくるから次の人に走ってもらうように言っといて。」

必死に顔を伏せながら立ち上がって、もう文也の顔を見ない様にするのに精一杯。

「ダッセーの、お前。」

逃げる様に一歩足を踏み出した瞬間、突然私の肩を掴むなりからかい混じりの小さな声でそう囁いた文也。

「う、うるさいっ…!」

きっと当分はこの事をネタにからかわれるんだろーな、文也が突然がんばれよなんて言ってきた所為なのに。
…なんちゃって。けどそんな責任転嫁だってしたくなるよ、そんな事言われたら。

「仕方ねーから肩貸してやるよ。アイスおごってくれりゃいいから」
「けっこーですー。」



少し応援されただけでこの有様。
どうやら私は、この頃から文也大好き人間だったらしい。
…だけど。この気持ちが災いする事になるなんて、この時の私は気付くはずがなかった。
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