Green girl
蒸発した、としても言葉足らずか。
泰輔は半月前に、所属していたカメラマンの派遣会社をやめたのだ。

だから蒸発した、という言葉が相応しい。冷めた、とでも言ったら良いのか。

泰輔は大学卒業後中小企業で働きながらカメラマンの派遣会社に入っていた。
中々写真の仕事も舞い込んで来なかったので事務仕事を続けていたが、一昨年からカメラに専念することにした。

しかし、カメラマンとは名ばかりでローカル誌の紹介する店の撮影周りや有名カメラマンのお膳立て、有名人のスキャンダルの写真を撮りにいくぐらいであり様々な会社からこき下ろされた。

それに加えて給料も安い。機材の移動で肉体労働。
いつしか泰輔の中で燃えていた仕事の熱意は消えてしまった。


「何でやめたんやろ...」
思い起こすのは一昨年辞めた事務仕事の事ばかり。カメラなんて諦めてこつこつと事務をしていれば安定していた。と、今更ながら後悔している。

日に日に憂鬱は増すばかりで、この年齢になって実家に戻るのが濃厚だ。

実家は関西にあり、小さな町の商店街で写真店を営んでいる。
数ヵ月前親父に店を継げるのか遠回しに聞いたところまだまだ譲る気はないらしい。

戻っても散々罵倒する親父の元で働く他ない。もしかしたら、家の敷居さえ跨がせてもらえないかもしれない。
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