イジワル婚約者と花嫁契約
経験……か。

「そうですよね。普通私の年齢だったら、それなりの恋愛経験を積んでいて当たり前ですよね」

つい愚痴が出てしまい、箸を進める手を休めた。

「あー……なるほど。灯里ちゃんはあれか。代表が昔からあんなだったから、まともな恋愛ができなかったってわけね」

「さすが千和さん。全くその通りです」

「……見ていなくてもその光景が目に浮かぶよ」

本当に浮かぶようで、千和さんは苦笑いを浮かべた。

「だから不安なんです。私には恋愛経験がないから、だからこんなに惹かれちゃっているのかなって。……こんな風に男の人と接したことなんて初めてだから、勘違いしているのかもしれないって」

人を好きになる感情を知っていても、健太郎さんのように接した人は初めてだから……。

「なるほど、ね。確かにあの代表がずっとそばにいたら、そういうのも分からなくなっちゃうわけだ」

「……はい」

すると千和さんは言葉を選ぶように、ゆっくりと話してくれた。
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