イジワル婚約者と花嫁契約
それにしてもお兄ちゃんってば本当、どこまで過保護というか心配症なのだろうか。

軽く頭を下げ後部座席のドアを開けると、やっと私の存在に気付いたお兄ちゃんは書類を見る手を休め、得意気に笑った。

「驚いただろう?」

「……うん」

その顔はまるで子供みたいだ。

田中さんはいつの間にか素早く運転席に乗り込んでいて、颯爽と車を発進させた。

「灯里と一緒に過ごしたい一心で会議頑張ってきたさ」

「……おかげでこちらは大変迷惑ですが」

ボソッと運転席から聞こえてきた声に、思わず身体がビクッとなる。

「なにか言ったか?」

「いいえ、独り言です」

どうやらお兄ちゃんの耳には届いていなかったようだけど、私の耳にはしっかりと届いてしまいましたよ。
ここ一週間こうやってお兄ちゃんと通勤するようになって気付いたことがある。
田中さんはたまに……いや、けっこうな頻度でさっきのように毒を吐く。
しかもお兄ちゃんに聞こえないようなベストな音量で!
そんな器用な真似ができるのなら、私にも聞こえないようにしてくれないかな。
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