イジワル婚約者と花嫁契約
健太郎さんみたいな人が、本気で私のことを相手にするはずない。
冷静に考えれば簡単に分かるはずだったのに。

涙を拭い、ちょうどホームにきていた電車に飛び乗った。
走ったせいか、車内はエアコンが効いていて涼しいはずなのに汗が止まらない。

汗を拭うと共にいまだに溢れる涙を拭いながら、電車に揺られていった。



その晩、健太郎さんからメールの返信が届いた。

【おやすみ】

たった一言だけのメールが。

この返信にはもちろん、それから送られてくるメールに私が返信することはなかった。



「灯里ー!帰るぞー」

「……はい」

健太郎さんにメールを返さなくなってから、一週間が過ぎた。
それでも毎日送られてくるメールと、度々かかってくる電話。
着信音が鳴るたび心が痛んだ。

私のこと本気じゃならメールも電話もしてくれなくていい!

そう言って啖呵を切れたらいいのに、私にはそんなこと出来なかった。
だって言ってしまったら、完全に健太郎さんとの関係は終わってしまうもの。

好きって自覚したばかりで、今の現実をなかなか受け入れることができない。

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