イジワル婚約者と花嫁契約
「お兄ちゃんの気持ちは嬉しいけど、今は無理なの。……健太郎さんに会いたくないの」

「灯里……」

オフィスが入っているビルの入り口前。
お兄ちゃんはゆっくりと、掴んでいた私の腕を離した。

あの日から一週間は過ぎているというのに、鮮明に思い出せるの。
健太郎さんの女性がふたりでいたあの場面を――……。
そのたびに胸が痛んで仕方ないの。

こんな状態じゃ健太郎さんと会えないよ。
まだまだ受け入れる時間が足りない。


「なにが無理なんだよ」

「え?」

突然聞こえた声にすぐさま振り返る。

「どうして会いたくないわけ?理由を聞かせてほしいんだけど」

嘘……どうしてここに?

「ちゃんと聞かせろよ、灯里」

「健太郎さん……」

突然目の前に現れた健太郎さんに、ただ驚くばかり。
それはお兄ちゃんも同じで、私同様驚き固まってしまっている。

「メールの返信はしない。電話にも出ない。それで俺には会いたくない?意味が分からねぇんだけど」
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