イジワル婚約者と花嫁契約
一歩、また一歩と私との距離を縮めてくる。
そのたびに見えてくる彼の表情にまた驚きを隠せない。

もちろん怒っていて、そしてなぜか悲しそうに表情を歪ませているから――。

「この一週間、俺がどんな思いでいたかお前には分かるか?」

一気に距離を詰められ、腕を引かれたと思ったら抱きしめられてしまった。
一瞬にして襲われる健太郎さんのぬくもりに、身体中が熱くなる。

「けっ、健太郎さっ……」

「黙れ」

冷たい言葉とは裏腹に、私を抱きしめる腕は優しくて、何度も背中や頭を撫で続ける。
まるで私の存在を確かめるように――……。

あまりに優しい手のぬくもりに、勘違いしてしまいそうになる。
このままこの手のぬくもりを信じたくなってしまうよ。

その瞬間、一週間前の情景が頭をよぎる。

そうだよ、この手のぬくもりを信じていいのは私じゃないんだ。
あの人なんだ。

このままではいけないと思い、健太郎さんから離れようとした時。

「黙って見ていれば……っ!いつまで灯里を抱きしめているつもりだっ!」

自分で離れるより早く、お兄ちゃんによって健太郎さんから引き離された。
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