イジワル婚約者と花嫁契約
「私……健太郎さんはあの人と付き合っているんだと思っていました」

「……どうしてそうなる」

「だってお似合いだし、健太郎さんが私と結婚したい理由も分からないし」

そう言うと健太郎さんは呆れたように大きく息を吐いた。

「あのさ、もう何度も言っているけど、俺は灯里と結婚したいの。いい加減分かってくれないかな?」

もう信じてもいいのかな?
健太郎さんの気持ち。……私と同じ気持ちでいてくれているって思ってもいい?

「聞いているのか?」

なにも言わない私に苛々しているのに、さっきから溢れて止まらない涙を拭ってくれる手は優しい。
私、信じたい。この優しい手のぬくもりは偽物なんかじゃないって。

「じゃあ私、このままずっと健太郎さんのこと好きでいてもいいんですか?」

「――え?」

信じたい一心で出た言葉に、健太郎さんの手は止まり、目を見開いたまま私を凝視してくる。

「好きなんです、健太郎さんのことが。……だから一週間前、他の人と一緒にいるところを見てショックでした。健太郎さんを諦める準備をしなくちゃって思って、それで連絡も無視しちゃって……」
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